文豪の恋文から構成力や文章表現を学ぶ
講義No.10706
ラブレターを書いたことはありますか?
今の十代は、ほぼ書いた経験がないかもしれません。自分は作文が下手だから書けないという人もいるでしょう。しかしラブレターの場合は、好きな相手へ思いの丈を書けばいいだけで、うまく書いてやろうなどという余計な計算はいりません。思いを素直に言葉にすればいいのです。ただし、そうはいっても「相手に思いが伝わる文章表現」というものがあることも事実です。文章表現を学ぶのに、良いお手本があります。それは、文章のプロが書いた「恋文」です。
あの文豪の書いた恋文とは
幼なじみの女性、文(ふみ)を妻に迎えた小説家、芥川龍之介が結婚前に書いた、彼女への手紙は有名です。東京を離れた彼は、冒頭に東京が恋しいと書いておき、次に「東京にゐる人もこひしくなるのです。さう云ふ時に僕は時々文ちやんの事を思ひ出します。文ちやんを貰ひたいと云ふ事を、僕が兄さんに話してから何年になるでせう。(中略)貰いたい理由はたった一つあるきりです。さうしてその理由は僕は文ちやんが好きだと云ふ事です。勿論昔から好きでした。今でも好きです。その外に何も理由はありません」。この恋文は、彼の作品とは、文章表現が明らかに違います。いわゆる商業的な香りのする小説に書くような文章ではなく、芥川の思いが恋文の中に実に素直に、率直に綴(つづ)られています。
恋文は文章表現の宝庫
ほかにも歌人の斎藤茂吉や、芸能人の石原裕次郎や美空ひばり、作家の吉屋信子や随筆家の須賀敦子などの恋文を読むと、やはり普段目にする彼らの文章とは違います。ためらいや迷いもあり、実に赤裸々です。広がる想像力を和歌にしたためた恋文もあり、まさに日本語文章表現方法の宝庫と呼べるものです。
最初の数行で思わず引き込まれてしまう文章は、何を最初に書き最後にどう締めくくるか、よく練られた構成によるものです。こうした話運び、つまり構成力や文章表現を高める言葉選びは、彼らの恋文から学ぶところがとても多いのです。
- 参考資料
- 1:日本語表現ラブレターレジュメ