苦痛や不安を可視化して「生活の質」の向上をサポート
講義No.10642
自宅で生活するがん患者
現在、がんの放射線治療や抗がん薬治療の多くは外来診療に移行しているため、がん患者は基本的には治療を受けながら自宅で過ごし、病気の進行にともなう心身の変化を自己管理(セルフマネジメント)していかなければなりません。がんそのものや副作用の症状を抱えながら生活を送る場合もあります。痛みを緩和するための「支持薬」は進歩していますが、治療の副作用である味覚障害や末しょう神経障害には効果的な薬がないのが現状です。味覚障害を起こすと、味がわからないために塩分の濃いものを食べ続けてしまうといった危険のほか、今までしていた調理ができなくなることへの精神的なストレスを負うこともあります。
症状を数値化する測定尺度
看護師は、患者さんが安全で安心な生活を送れるように教育や指導を行っています。ただし、味覚障害ひとつとっても受ける苦痛やストレスは人それぞれであり、一律的な指導の方法では患者さんの生活の質(QOL)を向上させることはできません。目に見えない苦悩や精神的な苦痛といった患者さんそれぞれの状態を正しく理解するには、それを客観的に測定する方法が必要です。
そこで、患者さんが5段階評価で答えることにより、現在の状況を点数化できる測定尺度が開発されました。これまでに味覚症状を把握する尺度や末しょう神経障害を把握する尺度が作成されています。患者さんへの聞き取り調査や文献の検討に基づき、食欲への影響などを点数化するものです。看護師は、患者さんの状態を客観的に把握することで、生活改善や患者さんの自己管理力を高めるために何をすればいいのかをフィードバックしながら考えることができます。
患者さんへの教育指導の責務
高齢化が進む社会において、医療や介護が必要な状態になっても住み慣れた地域で生活を続けられるようサポートする「地域包括ケア」は、ますます需要が高まります。在宅で治療を続ける患者さんの心と体の自己管理を助ける教育や指導は、より重要な看護師の責務となるでしょう。