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鉄を溶かして吸収する植物のメカニズム

講義No.10631

生物の生存に不可欠な鉄

 金属元素である鉄は、生物が生きていくために不可欠な栄養素の一つです。人間の場合は鉄が不足すると貧血になり、さらには免疫力が低下して命の危険にさらされることもあります。軽度な場合でも体がだるい、意欲が湧かないといった影響を及ぼします。鉄は吸収しにくいために知らず知らずのうちに不足し、日本では女性と子どもの約40%が鉄欠乏だと言われています。

植物も鉄欠乏で不健康に

 植物の場合は、鉄欠乏により葉が黄色くなって生育が止まり、それが続けば枯れてしまいます。人間は鉄欠乏と認識したら、食べ物やサプリメントから鉄分を得ることができますが、自ら動くことのできない植物はどうするのでしょうか?
 植物が鉄欠乏になる理由の多くは、土中の鉄が少ないのではなく、土がアルカリ性であるために鉄が溶解性の低い状態となり、植物が鉄を吸収できなくなるからです。そのような環境に対して、植物が自分の体を維持するために行う行動が「環境応答」です。イネやトウモロコシなど、私たちの主食となる重要な穀物も含まれるイネ科の植物は、根でムギネ酸という物質を作り、それには鉄を溶かす機能があります。鉄欠乏に陥ったイネ科植物は環境応答として根からたくさんのムギネ酸を土中に分泌し、鉄を溶かしてムギネ酸と共に吸収します。

栄養不足問題を救う穀物を作り出す

 日本は酸性ぎみの土壌が多いために植物の鉄欠乏はあまり知られていませんが、世界の耕地の約30%はアルカリ性土壌のために作物が育ちにくい地域です。そこで、イネ科植物の環境応答のメカニズムを応用し、アルカリ性の土でも育ちやすい植物を遺伝子組換え技術などのバイオテクノロジーにより作り出す研究が進められています。そのとき操作する遺伝子には、植物に含まれる鉄や亜鉛などの栄養価を高める作用もあります。
 発展途上国では、鉄欠乏貧血症は最も対策の遅れている健康問題の一つです。アルカリ土壌でも育ちやすく、鉄を豊富に含有する穀物の開発は、問題解決の大きな糸口となるでしょう。

この学問がむいているかも植物栄養学、化学、バイオテクノロジー

石川県立大学
生物資源環境学部 生物資源工学研究所 教授
小林 高範 先生

先生がめざすSDGs
メッセージ

 もし、あなたがいろいろなことに興味があるなら、進学の際にどれかひとつに決めてしまうのではなく、たくさんの興味を持ったまま進んだ方がいいと思います。私の場合は、無機化学が好きでしたが、無機化学そのものではなく、植物を研究材料とした生化学・バイオテクノロジーに進むことによって、無機化学の魅力も捨てずにこられました。早いうちに興味を絞ってしまうと、進んだ後に違うと気がついても後戻りが難しいことがあります。勉強や学問はとても楽しいことなので、楽しいと思うことはすべて勉強すればいいのです。

メッセージ

 高校生の化学、特に鉄や亜鉛などの金属イオンに興味を覚え、化学を学ぼうと決意しました。しかし、大学で勉強する化学は理解が難しかったために、純粋な化学は断念しました。進学した大学は2年次に学部や分野を選ぶことができたので、化学と生物の両方を扱う農学部の農芸化学分野に進みました。研究対象は、植物の中でも多くの人々の主食であり、遺伝子の解析も進んでいるイネにしました。例えば鉄はイネの成長に欠かせない栄養素で、そういったイネの研究を通して高校の時に好きだった無機化学にも携わることができたのです。

メッセージ

官公庁一般職/官公庁研究員/教諭(高等学校)/コンサルティング/調剤薬局

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小林 高範 先生がいらっしゃる
石川県立大学に関心を持ったら

 人間の暮らしの根幹を支えている農業生産。その基盤となる自然環境。そして食べるということ。そうした人と自然との関わりをしっかりと見つめ、未来へ生かしていこうとすること。そんな思いを実現するために、本学では少人数制での指導体制(卒業研究指導時、教員1人に対し学生3人以下)を取っています。結果、就職率100%、官公庁就職率25%(2020年3月卒業生)という実績を上げており、地域社会のニーズに応えられるよう努めています。「住みよさランキング2020」全国1位の「ののいち」で私たちと一緒に学びませんか。

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