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これからの看護に必要となる、「医療人類学」と「異文化理解」

講義No.08722

求められる「医療人類学」

 自分と異なる文化の人たちに触れ、文化や社会というものが人の「生」にどのように関係しているのかを研究する「文化人類学」という学問があります。その文化人類学をベースに、病気や医療に関連した事柄を文化的側面、社会的側面から見て研究するのが、「医療人類学」という分野です。1970年代以降に、北米から日本に入ってきた比較的新しい学問領域ですが、今後、医療や看護の分野では、医療人類学の考え方がより求められるようになるでしょう。

医療や死生観の違い

 近代的な科学技術が浸透していない地域では、病気に対して民間・伝統医療、妖術や呪術(じゅじゅつ)のようなものを用いることがあります。人々がどのように「病気」や「病い」と折り合いをつけながら生きているのか? それはどういう信仰や文化に基づくものなのか?を調べるのも、医療人類学のテーマとなります。人間の病いや死の概念は文化によってさまざまです。
 例えばスリランカでは、入院時の在院日数の平均が約4日です。日本の一般病棟での平均在院日数が約16日ですから、大幅に短いことがわかります。つまり入院してすぐ退院/転院するか、あるいは亡くなる最期のときだけを病院で過ごし、多くの人が自宅で亡くなっているのかもしれません。延命治療の概念も日本とは異なり、日本のような手厚い延命はほとんどありません。これは、どちらがいい悪いということではありません。死生観を考えることは、人にとって「何が幸せか」を考えることでもあるのです。

看護は何をめざすのか

 「何が幸せか」を考えることは、看護や医療とはどうあるべきかという問いにもつながっています。それを考えるにはグローバルな視点が大切で、多様性のある看護のとらえ方が必要です。文化の多様性、そして人間の多様性に触れることで、自国や自分の中での医療への取り組みを改めて見直すことができます。看護の中で「人間とは何か」「健康とは何か」を問い直すことにもなります。異文化理解は、看護の根本である他者理解にもつながるものなのです。

この学問がむいているかも文化人類学、医療人類学

東京都立大学(旧・首都大学東京)
健康福祉学部 看護学科 准教授
野村 亜由美 先生

メッセージ

 高校生から「どんな勉強をしたらいいですか」と聞かれることがあります。私は2つの力を養うことをお勧めしています。1つめは「問いを立てる力」です。問いを立てるとは、時代に流されずあたり前を疑うということです。そしてもう1つは「生き抜く力」です。自分が困ったとき、誰に聞けばわかるのか?という社会性を身につけることです。時間がかかってもよいので、自分が「なんだろう?」と思ったことについては、とことん追求、探究してください。これは大学生として学ぶ姿勢であり、看護の基本である「人間理解」にもつながります。

メッセージ

 脳神経外科で働いていた頃、脳疾患の後遺症で認知機能が低下した男性に出会いました。ある日その方と立ち話をしていると、彼がずっと私の足を踏んでいたので、冗談交じりに「足を踏んでますよ」と伝えました。するとその男性は「俺の足の下に足を入れるな!」と怒ったのです。私は、そういう考え方もあるのかと素直に驚きました。そのとき以来、私は考え方の多様性や「人間」について知りたいと考え、医療人類学という学問をとおして認知症の研究に取り組むようになりました。高齢者の生きる姿は、「生きるとはなにか」を教えてくれます。

メッセージ

青年海外協力隊の看護師/保健医療分野のNGO団体職員/看護系大学教員

※夢ナビ講義はそれぞれの先生の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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野村 亜由美 先生がいらっしゃる
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 東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。

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