今から半世紀ぐらい前の川は、とても親しみやすい環境でした。河原には石があり、釣りを楽しむ人もたくさんいました。ところが高度経済成長時代に入ると、工業用水などに水を有効活用するために、側岸をコンクリートで固めるようになり、極端な場合には川底もコンクリートで固めてしまいました。その結果、人が近寄りにくくなったばかりか、川にいた魚類や昆虫類がいなくなり、川の生態系が大きく変化したのです。また排水を川に垂れ流したために、川が汚れ、ゴミが溜まるようになりました。
大幅に悪化した河川環境を改善するために、平成9年に建設省(現国土交通省)は河川法を改正しました。これまで治水や利水だけを考えてきた川の整備に、自然の環境を取り戻すことが新たな目標として追加されたのです。その一環として、川に自然の石が置かれるようになりました。自然素材だから景観になじみ、空間に多様性が生まれます。ところがただ石を置くだけでは、集中豪雨などの出水時に石は流されてしまいます。そこでいくつかの石をスチールのワイヤーでつなぐアイデアが考え出されました。石をつなぐことで流れに対する抵抗力が増し、さらにつながれた石の間の空隙(くうげき)が魚や昆虫たちの絶好のすみかとなります。
では川のどこに、どのように石を置けばよいのでしょうか。実際の川を30分の1ぐらいにスケールダウンして再現した模型を実験室に作り、水を流してみます。これにより、洪水時の水の流れや石の様子がわかるのです。実験結果を元に、数値シミュレーションによる解析も行います。この解析により、実際に大量の雨が降ったときに、川の流量の変化や置いた石に加えられる水の力などを予測できます。自然の石を運んでくるのは、コンクリートを使うより少し多めに費用がかかるかもしれません。しかし、環境に対する影響や長い目でみた維持管理費などを考えれば、じゅうぶんにメリットがあるのです。
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環境理工学部 環境デザイン工学科 教授 前野 詩朗
近年、洪水の被害がよくニュースで取り上げられています。大雨が降り大災害を引き起こしているからです。こうした災害を防ぐために護岸整備が行われていますが、コンクリートだけを使ったやり方にはいろいろな問題があります。岡山大学環境デザイン工学科で取り組んでいるのが、自然にやさしい素材を使い、災害に強い多自然な川を作る研究です。豊かな川の環境を後世に残すのは、私たちの重要な使命です。広大なキャンパスを持ち環境に恵まれた本学で、ぜひ一緒に河川工学の研究に取り組みましょう。