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講義No.11249

アダム・スミスは「経済学者」だったのか?

「自由」と「自由放任」の違い

 諸個人が自由に自己利益を追求すれば、「見えざる手」により社会の利益も促進される。『国富論』のこの部分への着目によって、アダム・スミスはしばしば自由放任主義者とみなされます。しかし彼は『国富論』以前に『道徳感情論』を著し、人間社会の秩序を問いました。そこには、利害関係にない他者の目、すなわち「公平な観察者」を想像し、自身の行動や感情の妥当性を自分で判断する人間像が描かれています。それを念頭に置くと、経済活動の自由とは、諸個人のモラルを出発点とし、それによって形成される社会秩序の枠内に成立するものだとわかります。スミスを「経済学の父」「自由放任主義者」と言う場合、彼が道徳哲学者であったことが見落とされがちなのです。

国境を越えるアダム・スミス

 彼の著作は、出版後、国境を越えヨーロッパ各地で読まれました。『道徳感情論』は1759年の出版ですから、スミスはまず経済学者ではなく道徳哲学者としてデビューしたのです。『国富論』が出版され、諸外国で読まれ始めるのは20年近くも後になってからです。『道徳感情論』で扱われる内容は多岐にわたり、「流行」「慣習」「美」といった題材も含まれています。したがってそれは、人文学領域においても多くの関心を集めました。文学史に登場するような人々も、実はアダム・スミスをよく読んでいたのです。

翻訳にみる思想

 スミスの著作のみならず、翻訳により国境や時代をこえた作品は数多くあり、例として当時のドイツ語圏にも多くがもたらされました。とはいえ、そうした思想交流の重要な局面は、得てしてドイツ観念論などの巨大な哲学者の功績の陰に隠れてしまいます。翻訳は単調な言葉の置き換えではなく、特に思想的書物の場合には、想像と解釈の連続です。翻訳もまたひとつの「思想的作品」であって、どう読まれるかは、どう訳されるかにかかっていると言えるでしょう。大きな影響力を誇る1冊の向こう側には、星空のように広がる作品群がある。そこには見逃してはならない6等星もあるのです。


この学問が向いているかも 経済学史、社会思想史

愛知学院大学
経済学部 経済学科 教授
大塚 雄太 先生

先生がめざすSDGs
メッセージ

 今、世の中にはさまざまな価値観が飛び交い、情報が氾濫しています。ともすればそれらに惑わされてしまいますが、時にはそれらから距離を取り、自分をきちんと見つめ、気になって仕方がないこと、忘れられないことを大切にしてください。進路選択に悩み迷う時、結局のところ自身の興味・関心が最大の指針になります。お金にならないとか「変わり者」と言われても、あまり気にしないことです。若いうちから無理に世の中に合わせなくてもいいのです。自分が大事に思うことを捨てさえしなければ、多少回り道をしても、後悔はしないものです。

先生の学問へのきっかけ

 高校生の頃は社会的な出来事に関心をもっていました。社会を大きく揺るがす事件があったこともあり、「正しさってどう決まるのだろう」「生きるって何だろう」という漠然とした疑問を抱え続けていました。当時は自分の関心と経済学の重なりは見えていませんでした。紆余曲折を経て経済学部に進んだのですが、お金や政策といった経済学のイメージはいい意味で裏切られ、人間そのものを深く理解しようとする領域もあることを知りました。思想史そして恩師との出会いによって、当初の関心を捨てることなく現在に至ることができています。

先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

金融機関 / 公務員行政職 / 情報通信業 / 卸売・小売業 営業職 / 電気・ガス・熱供給・水道業事務職

大学アイコン
大塚 雄太 先生がいらっしゃる
愛知学院大学に関心を持ったら

 愛知学院大学は、建学以来、時代の要請に応えながら社会に貢献できる人材を育成してきました。130年を超える歴史を通じて受け継がれてきたのは、人間性を重視する仏教精神です。禅の教えをもとに「行学一体」の人格形成に努め、「報恩感謝」の生活のできる社会人を育成することを建学の精神としています。9学部16学科+短期大学部で構成された中部地区有数の規模と伝統を誇る総合大学。日進・楠元・末盛と2014年4月に名古屋都心部に開設した名城公園の4つのキャンパスで12,000人の学生が学修・研究に励んでいます。

※夢ナビ講義はそれぞれの先生の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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