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講義No.10870

人体を光らせてがんの放射線治療の見える化を可能にする

がんの放射線治療

 がんの三大治療法は、外科療法、化学療法、放射線療法です。放射線療法は、放射線を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。体を切らずに治療できるために患者の体力面への負担が少なく、臓器の機能の温存が優れていることもあり、近年、選ばれる割合が増えてきました。
 放射線は人の目には見えません。そのため、治療前に放射線ががんに当たるような治療のシミュレーションを行います。ただ、実際の治療ではがんへ正確に放射線が当たっているかがわかりません。また、臓器の健康な部分に照射してしまうと、障害を引き起こすこともあります。そのため、がんへ放射線が当たっているところを可視化する研究が進められてきました。

核反応による光をキャッチする

 放射線療法ではX線のほか、最近では陽子線も使われています。陽子線は水素の原子核が束になって流れる状態です。一方で、人間の体も原子でできており、原子核を持っています。照射された陽子線が体内を進むときに、体内の原子核と衝突することで核反応が起きて微弱な光を発する種(不安定な原子核)ができます。この光は人の目には見えませんが、特殊な装置で光を捕まえることができます。光の強度や分布を画像化することで、陽子線の当たっている場所をリアルタイムで可視化できるのです。

光の動きでがんの状態がわかる

 このシステムは既に医療現場で使われ始めています。さらに、核反応によりできた光を発する種が時間経過によりどのように動くのかを観測する研究も始まっています。がん細胞の表面は活動が活発で栄養豊富な一方で、中心部へは栄養が行き届かないために冬眠状態になっている場合もあります。放射線治療はがんが活発な状態でないと殺傷能力が落ちてしまうのです。活発ながんは血液の流れが多いので、陽子線を当てたことでできた光を発する種は外側に流れていきますが、冬眠状態の部分は光り続けます。これを正確に計測することにより、がんの状態を可視化し、より効果的な治療に活かすことができるのです。


この学問が向いているかも 医学物理学、放射線技術学、放射線科学

大阪大学
医学部 保健学科 放射線技術科学専攻 教授
西尾 禎治 先生

先生がめざすSDGs
メッセージ

 心臓の再生医療やiPS細胞の研究では、医療関係者と工学関係者による医工連携が進んでいます。放射線を使った医療では、放射線物理学の専門的な知識を活かし、医学と理学、工学、放射線技術などの分野が一緒になった研究が必要です。
 大阪大学保健学部放射線技術科学専攻では、診療放射線技師という国家資格を取る勉強だけでなく、放射線物理学を学んで、新しい治療や機器の研究、そして医学物理士をめざすことができます。あなたが理学、工学系が得意で研究やものづくりが好きだけど医学にも興味があるなら、ぜひ一緒に学びましょう。

先生の学問へのきっかけ

 もともとは物理学科で星の中の元素合成の研究をしていました。星の中では陽子が燃焼してヘリウムができる核融合を起こして光を出します。実は宇宙や星と人体はほぼ同じ元素でできています。それならば、がんの放射線治療で陽子を人体へ照射したら、星と同じような核反応により光ることで、これまで目に見えなかった、がんへ照射される放射線が見えるのではないかと考えて、研究を始めました。最初は見えるはずがないと信じてもらえないこともありましたが、信念を持って研究を続け、現在、がんの放射線治療での活用が始まっています。

先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

医療機関診療放射線技師/医療機関医学物理士/大学教員/公的研究所研究員/医療機器メーカー研究開発者・技術営業/外資系企業技術開発者・技術営業/情報系企業システムエンジニアリング/製薬会社技術員/官公庁職員

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西尾 禎治 先生がいらっしゃる
大阪大学に関心を持ったら

 自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。

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