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講義No.10713

「みんな」とは誰なのか 近代ドイツ文学における「フォルク」の概念

フォルクという概念

 フォルク(Volk)とは民族や国民、民衆などを意味するドイツ語で、広くとらえれば「みんな」という概念です。現代の日本で「国民のみなさん」「みんなの考え」という場合、「みんな」が誰を指すのかはたやすくイメージできますが、それがどの時代、どの国にも当てはまるとは限りません。
 18世紀後半、フランスでは長く続いた王政が終わり、民衆が統治する国が誕生しました。隣国ドイツもこの影響を強く受け、社会が大きく変革します。この時代に書かれたドイツの文学作品におけるフォルクという言葉の使われ方を調べると、実に興味深い「ブレ」が見られます。

文学作品に見られる葛藤

 フォルクという言葉の使われ方の変遷は、18世紀末から19世紀初頭にかけて活動したドイツの小説家、ハインリヒ・フォン・クライストの作品の中にも見てとれます。当時はバラバラであったドイツが一つの国家としてまとまろうとしていた時代ですから、フォルクはドイツの民族や国民という意味合いを強めていきます。しかし、同時にクライストの一連の作品では「ポピュリズムに踊らされる集団」「徒党を組んで暴動を起こす集団」、あるいは「モノを買い評価する消費者」のことを指す言葉でもあったのです。フォルクには同じ民族であるという連帯意識と同時に、それに対する恐れ、また小説家として迎合したいという打算など、さまざまな意味が込められていることがわかります。

一つの言葉から今を考える

 フォルクという概念がさまざまに揺らいでいた当時のドイツの状況は、資本主義・民主主義が行き渡った現代に通じるものがあります。自国の利益を優先する排他的なナショナリズムや、民衆の欲望や不満をうまく刺激するポピュリスト政治家の台頭、消費者におもねる過度な市場主義といった現代社会の歪みの出発点は、18世紀後半からのドイツにあるともいえます。当時の文学作品を原典で読み込み、一つの言葉に着目して研究することは、私たちが生きる現代社会を考えることにも通じるのです。


この学問が向いているかも ヨーロッパ文学、ドイツ文学、概念史

福岡大学
人文学部 ドイツ語学科 講師
須藤 秀平 先生

先生がめざすSDGs
メッセージ

 大学で学生の進路相談を受けることがありますが、皆が同じような資格を取ろうとします。現代は多様性が重視され、誰もが自分らしく生きようとしますが、結果的に同じ方向を向いてしまっているようです。これは、自分を取り巻く状況を現代の情報や価値観だけでとらえる姿勢が影響していると思います。
 例えば昔の海外文学を読むことで、その時・その場所で起こった出来事や、それに対する人々の葛藤を知ることができます。そうした読書体験を重ねることで、きっと今の自分が立っている場所を客観的に推しはかれるはずです。

先生の学問へのきっかけ

 子どもの頃から本が好きで、中学生の頃から本格的に読書に没頭するようになりました。当時はゴールディングの「蠅の王」や遠藤周作の「沈黙」など、国内外の小説に心を動かされました。同時に、幼い頃から「みんな」という集団に対して、違和感を抱き続けてもいました。大学では文学部に所属し、さまざまな海外文学に触れる中で、近代ドイツの作家クライストの作品に出会いました。現在は、彼が活躍した19世紀初頭のドイツ文学において、Volk(民族、国民、民衆)という概念がどう扱われ、変遷したのかを研究しています。

先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

旅行代理店/航空系/保険会社/食品会社/情報・通信業

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※夢ナビ講義はそれぞれの先生の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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