講義No.09920
コンピュータを使ってデータを分析し、処理することは、いまや当たり前の時代です。中でも人工知能(AI)の研究は日々進歩し、近年では、人間の創造性豊かな思考や感情を表現し、言葉の持つ奥深い意味をくみ取り理解できる人工知能の開発が進んでいます。 言語、特に日本語は、同じ単語を使っていても、感情や文脈、解釈の仕方、時代の変化などにより意味が異なってきます。そうした言葉の不思議さ、多義性を分析する研究の第一歩は、膨大なデータを分類し、分析することです。
そのデータを生かした研究のひとつが、人工知能に物語を自動生成させるシステムの開発です。小説などの文章を構造的、技術的に分析する「物語論(ナラトロジー)」をベースに、言葉の組み合わせやレトリック(修辞技法)のパターンを人工知能に学習させます。それにより、あるテーマを与えると、人工知能が自動的に文章を作成し、物語を作るという仕組みです。ただし、ここで問題なのがレトリックです。レトリックとは、簡単に言えば「花のような人だ」のような表現、比喩や修飾語などのことで、文学作品でよく使われる手法です。レトリックを人工知能に組み込むには、その言葉が持つ深い意味合いも含めたデータを的確に与えなければなりません。そのためには自然言語処理や人文学の知識も必要で、理系・文系双方の学問が融合した研究なのです。
単に辞書にある言葉の意味だけでなく、発言の奥に隠された意図や深い意味までコンピュータが判別できるようになれば、さまざまな分野でヒトとコンピュータの双方向コミュニケーションが可能となるでしょう。例えば、「その場の空気を読んで受け答えする人工知能」が生まれるかもしれません。しかもその会話も、ワンパターンないわゆる機械的な応答ではなく、相手によって言葉遣いを変え、状況に応じて臨機応変に答えてくれるものとなるでしょう。
人工知能に物語を作らせる方法
夢ナビライブ2019 名古屋会場
情報ってどんなものだろう?
物語は「パターン」に落とし込める?
パターン抽出による物語自動生成!?
講義を視聴する(30分)
文学作品って何だろう? 誰にでも小説は書けるのだろうか?
私たちは日本語のきまりや仕組みをすでに知っている
語彙が多いのはなぜ? 日本語を豊かにした「ひねり」と「かさね」
Speaking naturally in English!
人が言葉を発する直前の脳の働きを解明する
公立はこだて未来大学 システム情報科学部 複雑系知能学科 准教授 村井 源 先生
公立はこだて未来大学は、単にコンピュータや人工知能についての知識を学ぶだけでなく、実践的な講義を通じて、人と社会の中で情報技術、人工知能の技術がどのように生きていくかを、自分の頭で主体的に考えていく学びを行っています。また、社会と人の中で生きる技術、という点では、人文系の知識も必要となります。 例えば私が手がける「人工知能に物語を理解させる」という研究では、人文学、特に言語学や物語論なども学んでいきます。もしあなたが理系か文系どちらにしようか迷っているなら、ぜひおすすめしたい分野です。
私の専門は、情報処理という理系分野と、人文学という文系分野の両方の知識を必要とする研究です。ルーツは幼い頃に通った教会です。神父の話の解釈が人により違うのはなぜかと疑問に思い、言語学に興味を持ちました。しかし進路決定の時に「これからはコンピュータの時代だ」と感じ、大学の工学部に進み、ロボット工学の研究に没頭しました。そして大学院で出合ったのが、コンピュータで文学作品を分析し解釈するコンピューテーショナルナラトロジーです。幼い頃の関心とつながり「こんな研究分野があるんだ」と感激し、現在に至ります。
今の車はコンピュータなしに動きません。また、航空機の予約もできません。社会全体がコンピュータなしでは動かないようになっており、これからもっと広がっていくでしょう。資源がない日本では、社会全体に影響力のあるIT(情報技術)を武器に、世の中のさまざまな分野に踏み込んで革新をもたらしていくことが重要です。そのためには、これから世界を変えてやろう! と考えている学生に来てほしい。最先端を科学する不思議と驚きの世界に会いに来てもらいたい。未来大は、そうした意欲に十二分に応える教員と研究環境が整っています。