約500人に1人いる「場面緘黙」
家では話せるのに人前に出ると話せなくなってしまう症状は「場面緘黙(ばめんかんもく)」と呼ばれます。約500人に1人が発症していると言われており、多くは幼児期に症状が始まります。場面緘黙の子どもはクラスメイトが話しかけても返事ができないし、授業中に音読することもできません。ずっとそういう状態が続くと、周囲からあの子は話さないと認識され、ますます話しにくくなります。年齢が上がると話せるようになるケースもあれば、30代を迎えるのに20年以上も母親以外と会話をしたことがなく、その母親とですらほとんど口をきいたことがないという人もいます。
学校は緊張する場所
場面緘黙の大きな原因は不安や緊張です。過度の不安を感じると爪かみや母親と離れられないといった形で心の状態を表面化させる子は多いですが、場面緘黙もそうした不安や緊張から生まれる症状の一つだととらえることができます。環境の影響も大きく、特に不安と緊張を強いられる場面の多い「学校」は緘黙状態に陥りやすい場所です。
心理療法を使い症状を改善
場面緘黙は特別支援教育の対象の一つで、早い段階から適切な関わり方をすればほとんどの場合は治すことができます。しかし、「席に座っていられない」「友だちとのトラブルが多い」といったほかの発達障害と異なり、授業の妨げにならないため、適切な支援が得られず放置されてしまうケースも多いのです。場面緘黙を治すには、本人の話しやすい相手や場所、考えていることなどを丁寧に聞き取り、一人ひとりにあった支援方法を考えます。今できていることより少し高いハードルを用意し、クリアしたら次のステップに進むという一種の心理療法を用います。ハードルは人と場所、活動を組み合わせて作ります。例えば最初の段階では「クラスメイトを家に招き、少し発声が必要なUNO(ウノ)のようなカードゲームをする」とします。それができたら次は遊びを「カルタ」にしたり、遊びの場所を「校庭」に変えるなど、少しずつ条件を変えていくのです。