微少な空間の秘密を探ろう
最近、さまざまな分野で「ナノ」が注目されています。1ナノメートルは1mmの100万分の1で、このサイズの構造体は決して人間の目でとらえることはできません。物質には固体・液体・気体と3つの状態がありますが、中でも固体のナノ空間は直接観察するのが困難です。しかし、この「固体ナノ空間」にこそ、私たちの生活を変える可能性が隠されているのです。
例えば、浄水器に使われる「活性炭」や、ディーゼルエンジンの排ガスの有害物質を分解する触媒として使われる「ゼオライト」には、ナノレベルのたくさんの小さな孔(あな)があり、匂いなどの成分をそこに引き寄せるという性質を利用しています。この現象を「吸着」と呼びます。これらの吸着材は、原発事故にともなう放射性物質の除去や、宇宙ステーション内の二酸化炭素の除去など、用途をさらに広げています。
ナノ空間だから可能となる化学反応も
化学合成でも、これまでは一定の条件がなければ不可能だったことが、「ナノスペース」という条件下であれば反応が一気に進む場合があることがわかっています。
例えば、船底に塗る亜酸化銅を合成するには、酢酸銅を高温・高圧の状態にしたり、紫外線や還元剤を使ったりする必要がありました。しかし溶液にナノチューブを入れることで、分子が極小空間に入って不安定な状態となり、元に戻ろうか反応しようかというせめぎあいとなります。すると紫外線でなくても、蛍光灯などの可視光で容易に反応し、還元剤がなくても亜酸化銅になることがわかりました。
常識にとらわれないことが新発見につながる
ほかにも、イオン溶液でマイナスイオンだけが吸着したり、絶縁体であるはずの硫黄が電気を通したりと、「ナノスペース」の世界ではビーカー、フラスコ、試験管では絶対に起こらない反応が起きます。ですから、固定観念にとらわれず、見えない世界を実験と計算の両方で解明していくことで、これからまだまだ人類が知らない反応や物性が発見される可能性が大いにあるのです。