夢ナビ夢ナビは、さまざまな言葉をデータベースから検索・閲覧し、将来の進路を決める“きっかけ”を提供します。

講義No.03318

『東海道中膝栗毛』は笑いのスタンダード

教科書に載らないヒット作

 駿河(するが 現在の静岡県中部)出身の江戸時代の人物に、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)がいます。彼は『東海道中膝栗毛』などのシリーズで知られる有名作家ですが、作品中には駄洒落(だじゃれ)や体当たりのギャグ、品のない笑いが盛りだくさんです。遊廓(ゆうかく)や遊女も登場し、人によっては眉をひそめるようなエピソードも多く、親が子どもに読ませるのに難色を示す典型的な作品だと言えます。現代で言うところのドリフターズのコントや『クレヨンしんちゃん』に近い内容だったのです。

読み手を熟知していた一九

 しかし、ドリフターズや『クレヨンしんちゃん』が現代で人気を得たように、「膝栗毛」も当時の人たちに大いに受け入れられました。読み手の感性は今も昔もそれほど変わらず、わかりやすく、ちょっと品のない笑いこそ面白がられるものです。性的なものをイメージさせる描写にしても、古くは『枕草子』や『源氏物語』でも描かれ、「百人一首」の歌にも詠まれています。作品の本質的な面白さが人々に受けると熟知していた一九は、商品を売るための戦略を考えられる、優れたビジネスパーソンだったとも言えるでしょう。

「膝栗毛」が変えたもの

 別の視点から見ると、毎回の話がパターン化され、明確なキャラクターシステムが作られていた点も、読み手のハードルを下げた一因です。弥次(やじ)さんと喜多(きた)さんの2人さえいれば、どこに旅をしても話が成立します。その点では現代の「水戸黄門」に通じているとも言えます。実際、「膝栗毛」も長寿シリーズとなり、一九は20年の長きにわたり執筆を続けました。このシリーズがいかにヒットしたかを示す証拠として、江戸時代の出版システムを変えたという点があります。それまで、大衆向けの作品は浮世絵と同じ江戸限定の問屋が扱い、販売網も限られていました。しかし「膝栗毛」があまりにも人気が出たため、広く地方でも販売するようになったのです。つまり「膝栗毛」は出版史にも大きな足跡を残した、重要な作品なのです。

参考資料
1:この講義について

アイコン

講義を視聴する(1分)

アイコン

講義を視聴する(1分 その2)

アイコン

講義を視聴する(1分 その3)

アイコン

講義を視聴する(30分)

この学問が向いているかも 言語文化学

静岡大学
人文社会科学部 言語文化学科 教授
小二田 誠二 先生

先生の他の講義を見る
メッセージ

 国語は文章を正確に読み取る力を養うだけの教科ではありません。古典から学ぶことは、人間らしく生きるための知恵、だったりするわけですが、それだけなら、ほかにもたくさんの情報がありますよね。古典が古典として存在するのは、内容だけでなく、その表現方法にもさまざまな工夫があったからでしょう。新しいメディアが絶えず生まれ、情報が氾濫する現代にあって、伝えたいことを的確に伝えるためのヒントも、古典の中にたくさんあります。ビジュアルの時代であった江戸時代はそういう意味でもとても魅力的です。ぜひ、覗いてみてください。

先生の学問へのきっかけ

 私は特に熱心な歴史好き、古文好きだったわけではなく、ごく普通の高校生でした。現在の道に進んだのは、大学1年生のときに授業で井原西鶴の小説を読んだことがきっかけでした。また、2年生になって、日本史の古文書判読の面白さ、国語学の授業で読んだ黄表紙や洒落本などの江戸戯作の表現がとても新鮮だったことも大きく影響しています。以来、当時の人たちはどうやって情報を獲得し、整理し、伝えていたんだろう、ということをずっと考えてきました。授業との出会いは大切ですね。

大学アイコン
小二田 誠二 先生がいらっしゃる
静岡大学に関心を持ったら

 静岡大学は、6学部19学科と全学横断型教育プログラム「地域創造学環」を擁する総合大学のメリットを生かし、学生の知的探究心に応えることができる幅広い学問領域の教育を実施しています。大学のビジョンは「自由啓発・未来創成」であり、これは自由によってこそ自己啓発を可能にし、それを通じて、平和かつ幸福な未来を創り出すとの力強い思いを表明しています。

TOPへもどる