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講義No.03317

江戸時代に楽しまれた事実読み物、“実録”

大岡越前も水戸黄門も、実在の人物とは違う?

 日本では江戸時代頃から木版印刷が普及しました。享保の改革以降、徳川幕府による厳しい出版統制がありましたが、講談(話芸の一つ)や写本(手書きで複製された本)で伝えられる情報が数多くありました。当時は「大岡政談」「水戸黄門」「皿屋敷」など、実際の事件や政治的背景をベースにした作品が人気でした。これらの物語“実録”は、事実を基にしていますが、伝承の過程でさまざまに変化していきました。それはその物語が、講談を聴いたり写本で読んだりする人々や、彼らの属する小さな社会に受け入れられる必要があったからです。

説得力こそが、事実

 例えば殺人事件の場合、はっきりした動機もなく殺人が起きたとなれば、リアリティがないばかりか、「自分もそうした目に遭うのではないか」と読み手や聴き手の不安をあおることになります。そこで事件の背景となる、被害者・加害者の人物像やそれぞれの境遇といったものが付け加えられていきます。それらは「事実」であったり「そうであったに違いない事実」であったりしました。例えば被害者は若くして財をなした成功者、加害者は生まれながらに不幸な境遇の貧乏な人、という具合です。それにより物語に説得力が加わる上、被害者も加害者も「特別な人」となることで事件が自分たちと異なる世界のものとなり、安心して生活することができるのです。こうした変化があちこちの小さな社会で起こりました。

“実録”の消滅

 明治初期、こうした“実録”の出版が解禁されると、事実という情報が大量に印刷され、地域を問わず流通するようになりました。すると写本というメディアはなくなり、小さな社会ごとの要請のようなものによる変化もなくなり、やがて“実録”は消滅していったのです。人々は共通の情報を受動的に受け入れるのみとなりました。
 この“実録”の記された写本は、当時の人たちの歴史観や事実をどう表現していたか、またそれらの地域性などをうかがい知ることができる、民俗学的にも大変優れた史料だと言えます。

参考資料
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この学問が向いているかも 言語文化学

静岡大学
人文社会科学部 言語文化学科 教授
小二田 誠二 先生

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メッセージ

 国語は文章を正確に読み取る力を養うだけの教科ではありません。古典から学ぶことは、人間らしく生きるための知恵、だったりするわけですが、それだけなら、ほかにもたくさんの情報がありますよね。古典が古典として存在するのは、内容だけでなく、その表現方法にもさまざまな工夫があったからでしょう。新しいメディアが絶えず生まれ、情報が氾濫する現代にあって、伝えたいことを的確に伝えるためのヒントも、古典の中にたくさんあります。ビジュアルの時代であった江戸時代はそういう意味でもとても魅力的です。ぜひ、覗いてみてください。

先生の学問へのきっかけ

 私は特に熱心な歴史好き、古文好きだったわけではなく、ごく普通の高校生でした。現在の道に進んだのは、大学1年生のときに授業で井原西鶴の小説を読んだことがきっかけでした。また、2年生になって、日本史の古文書判読の面白さ、国語学の授業で読んだ黄表紙や洒落本などの江戸戯作の表現がとても新鮮だったことも大きく影響しています。以来、当時の人たちはどうやって情報を獲得し、整理し、伝えていたんだろう、ということをずっと考えてきました。授業との出会いは大切ですね。

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