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日本史
講義No.g005930
教科書では学べない、記録を残さない人たちの「民衆史」
民衆史の挑戦
1960年代から登場した日本史の研究分野に、「民衆史」があります。一般に、歴史上の人物といえば、政治家や知識人ばかりです。しかしいつの時代も、社会の大部分を構成しているのは、名もなき人びとです。一般の人びとはいったい何を考え、どのように生活していたのでしょうか。そこに焦点を合わせて、歴史を書き直してみる、それが民衆史の研究者がはじめた挑戦でした。
問題は、そうした人びとは、自らのことをほとんど記録に残さないため、手がかりとなる史料が圧倒的に少ないことです。そこで、民衆史の研究者は、裁判記録やルポルタージュなど、さまざまな史料の断片をよせ集めて、過去を再構成していきます。例えば、人びとが何か事件を起こした時、その事件の記録は、人びとの日常を知るうえで重要な手がかりとなります。
暴動からわかる民衆の意識
そうした事件の一つに、都市暴動があります。20世紀の初頭、東京では9回もの暴動が起こりました。大勢で大通りを占拠し、交番に放火したり、路面電車を破壊したりしたのです。
暴動に参加したのは主として男性の労働者で、15~25歳の若者でした。賃金が安いためにどれだけ働いても貯金はできず、教育を受けたくても受けられないという人たちです。彼らは東京で、ある種の疎外感を感じながら生きていました。一方で、彼らは世の中に認められたいという願望を強く持ってもいたのです。社会から疎外されているという不満と、その裏返しの承認願望とが、暴動という形で噴出し、彼らはつかの間、東京の街を占拠したのだと考えられます。
民衆史のこれからのテーマ
こうしてみると、憎しみや疎外感といった感情が人びとの行動を強く規定していることがわかります。これから民衆史で重要となるテーマは、この「感情」です。今までの歴史研究は、感情について十分に考えてきませんでした。しかし排外意識やナショナリズムを理解するにも感情は重要です。過去の人びとの感情をリアルに解き明かすことで、歴史はもっと魅力あるものになるでしょう。