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講義No.08765

支配関係をもくつがえす「文学」の力

庶民が手に入れた、読み書きする力

 宗教改革を行ったルターが聖書をドイツ語に翻訳するまで、聖書はギリシア語やラテン語で書かれていました。つまり僧侶や貴族にしかわからない書き言葉です。それをルターは初めて庶民の言葉であるドイツ語に翻訳しました。これによって庶民は読み書きを始めるようになり、それと並行して小説の源流となる散文が流行しました。こうして識字率が上がった地方の農民たちは、迷信やデマによって惑わされることなく自主的に考える態度を身につけるようになったのです。

ヘーベルの作品『びんた』に込められた風刺

 そのようにして書かれた短い散文に、ヨハン・ペーター・ヘーベルという作家が書いた『びんた』と題された一編があります。小さな男の子が母親に泣きつきました。「お父さんがぼくをひっぱたいたよ」。すると父親が来て言いました。「またうそをついてやがる。もう一発くらいたいのか」。
 これはたった2、3行の作品ですが、その中に大きなどんでん返しがあります。子どもが父親にたたかれ母親に泣きつくのですが、父親は「“もう”一発くらいたいのか」という余計なひと言によって、否定しようと思っていた自分の罪を暴露してしまうのです。この時代、農村という狭い生活圏の中ではこういった暴力が日常的に行われていました。おそらく父親は日頃から暴力をふるっていたから、無意識に自分の罪を認めてしまうような重大発言がポロリと出てしまったのでしょう。父と子という絶対的な支配関係に対して疑義を呈し、ひっくり返して転覆させてみせる、これは一種の社会風刺なのです。

文学は直接には語らない

 人間は昔から、やりきれないことに対して暴力をふるうのではなく、言葉によって自分たちに対する圧力を跳ねのけてきたという歴史があります。へーベルの作品には、むやみに暴力をふるってはいけないという直接的な言葉は全く使われていません。直接語るのではなく、そこはかとなくそう思わせる、それが「文学」の力なのです。

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この学問が向いているかも 人文社会学、ドイツ文学

首都大学東京
人文社会学部 人文学科 教授
園田 みどり 先生

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メッセージ

 18世紀の哲学者カントは『啓蒙とは何か』という著作の中で、「自分の頭で考えることができない未熟な状態を脱しなさい」と呼びかけています。これは今のあなたには、「インターネット上の怪しげな情報などに惑わされず、書物や新聞から得られた知識をもとに、時間をかけて考え批判する勇気を持ちなさい」という教えになるでしょう。スマートフォンを、時々は文庫本に持ちかえてみましょう。
 人間にはさまざまな生き方があって、可能性は無限にあるのだと気づかせてくれます。そして何よりも、生き続ける勇気を与えてくれるでしょう。

先生の学問へのきっかけ

 小さい頃母にシューベルトの子守歌をドイツ語で聴かせてもらったり、ウィーン少年合唱団の音楽映画を見たりして、ドイツの文化は身近で親しみがありました。ドイツ語への興味から、やがていつしか小説や詩にも強く惹かれるようになりました。
 もともと音楽がきっかけでしたが、実際にドイツへ行ってみると絵画やほかのパフォーマンス芸術に衝撃を受けました。日本にいるのと現地で目にするものは全然異なります。空気や気候も違えば、人々の話す言葉も表情も違うのです。それはどれもドイツの文化を勉強しなければわからなかったことでした。

先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

物流欧州派遣/SEソフトウェア開発/官公庁文化・教育/出版社編集

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 首都大学東京は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。

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