ゴムやプラスチック、ナイロン、PET(ポリエチレンテレフタラート)など、私たちの日常生活は多種多様な高分子素材によって支えられています。ただ、これほど多様な使われ方をしているものの、高分子は、その「実力」を、まだ完全には活用しきれていません。高分子が一般的な素材として使われるようになって半世紀ほどしか経っていないため、学術的な研究が追いついていないのです。
大量の分子が、長い鎖のように化学結合したものの総称を「高分子」と言います。私たちが使っているプラスチック製品は、高分子を熱や圧力で無理やり形状を与えている状態にあります。でも高分子自体が「もともと取りたかった形状」を生かせる加工法を工夫すること(これを自己組織化と言います)で、新しい機能を持ったプラスチック製品が作れるようになります。 例えば、レジ袋など幅広い用途で使われているポリエチレンは、溶剤で溶けにくい(つまり、結晶構造が壊れにくい)ため、熱で溶かす以外の接着方法がありませんでした。しかし、特殊な「ブロック共重合体」(複数種の高分子を連結させた物質)を塗布することで、熱を加えずにポリエチレン同士を接着する方法も開発されました。また、低温では液体、温度を上げると固体、温度が下がると再び液体……という、ユニークな応答をする液体も作りだされています。
プラスチックのリサイクルは、熱で溶かして成形しなおす方法が主流ですが、成形途中や使用している間に再使用に向いていない構造になってしまっているために、使い勝手が悪くなり、再使用用途が限られています。しかし、加熱成形する温度や時間、そして冷やし方などを調整することで、「物性値」(硬さや剛性、弾性など)をほとんど低下させずにリサイクルできるようになることがわかってきました。高分子の研究は、新しいものを作り出すばかりでなく、限りある資源を大切に使うことにもつながっているのです。
高○○の「こうなりたい」を大事にしよう。
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ポリエチレンの結晶
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工学部 化学システム工学科 教授 八尾 滋
あなたは、大学でどんな分野について学ぶか、具体的に決めていますか? もしも、「理系学部をめざしているけど、何が自分に向いているのかわからない」と思っているのならば、「高分子化学」を選択してはどうでしょう。 高分子化学の領域には、化学は勿論、物理や生物など、いろいろなジャンルの学問が詰まっています。「何を学ぶべきかわからない」なら、高分子化学を選びましょう。その中できっと、「本当にやりたいもの」が見つかるはずです。
生き物が好きで、愛犬との散歩が一番の趣味という少年でした。中学・高校と進むにつれ、物理が得意科目になっていきましたが、子どもの頃からの生き物好きも相変わらずで、さらに進路選択の時期、生命現象を化学的に研究する「生化学」も話題になってきたため、何を専門に選ぶかにはずいぶん迷いました。考えあぐねた結果、「いろいろなことがやれそうだから……」という、ちょっと曖昧な動機で高分子化学を選択しました。そして、物理・化学・生物の知識を総動員しなければならない高分子化学の世界に、どっぷり浸ることになったのです。
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