歩行中、上下の揺れが少ない
人間の重心は、両足で立っている時には骨盤の上方部分にあり、歩行中は上下左右方向に動いています。体重は右足を上げると身体の左側にかかり、左足を上げると右側にかかる仕組みです。
歩行中の重心の高さは、わずか上下3~5cmほどの幅で移動しています。片足で立っている時に一番高くなり、両足が地面についている時に最も低くなります。一番高くなる時でも膝が少し曲がっているので身長には及びません。つまり、身長と同じ高さのトンネルを通り抜ける際にも普段通りに歩いてさえいれば、頭を打つことはありません。
このような動きが少なく滑らかな重心移動を行うために、骨盤や足の関節がさまざまな微妙で精巧な動きをみせます。そして、その動きを実現するために下肢の多くの筋肉が互いに協調しあって働いています。人間は成長していく中で、こういった精巧な動きを、少しずつ学習し、身につけているのです。
無駄のない歩き方は疲れにくい
人間は一定の速度で歩いている時でも実は速く動いたりゆっくり動いたりしています。振り子運動と同じで、重心の位置が高くなると動きが遅くなり、重心の位置が下がると速くなります。こうすることで、重心の上下移動を上手に前方への推進力に利用しているのです。この重力の利用で、人間は前進運動に必要な仕事量の60%程度を稼いでいます。そして、残りの40%程度を足の筋肉が担っています。実際、多くの筋肉は、必要な時にだけ働いて、それ以外は休んでいます。
一方、サルの歩行はどうでしょうか?「モンキーウォーク」という言葉があるように、サルは膝を大きく曲げて歩くため、重心は上下に大きく移動するにもかかわらず、人間のように重力をうまく利用することができません。そのため、足の筋肉に大きな負担がかかり、すぐに疲れてしまいます。
いかに人間の歩行は無駄がなく疲れにくい歩き方かということがわかります。
だからこそ、人間は長距離を歩けるのです。